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大阪高等裁判所 昭和33年(う)1282号 判決

被告人 村上輝正

主文

原判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

被告人の控訴趣意(事実誤認の主張)、同弁護人岡本徳、横田静造の各控訴趣意第一点(事実誤認の主張)、同第二点(法令の適用違反の主張)について、

よつて案ずるに、原判決が論旨摘録の如き事実を認定し、これに対し旧関税法第七六条を適用したことは所論のとおりである。しかしながら旧関税法第七六条(新関税法第一一一条も同様である)に所謂免許を受けないで貨物を輸出することとは、詐偽その他不正の手段により適法の免許を受けないで、貨物を輸出することを意味するものと解すべきであるから、税関に対し何等輸出の申告をしないで、所謂密輸出をする場合は勿論、たとえ税関に対し輸出の申告をしてその免許を受けたとしても、申告に際して品名の詐称その他法令の定める許可、承認等の重要な証明事項に関し虚偽の申告があつたり、又通関に際して貨物の同一性を害する程度に貨物の実質を偽つたり、その他偽装、隠匿等の不正の手段が認められる場合には該免許は税関吏の錯誤に因る無効のものというべく、従つて未だ適法の免許があつたものとは認められないから、等しく無免許輸出罪を構成するものといわなければならない。しかし税関に対し輸出の申告をするに当り正しい品名を申告し、該品名に該当する貨物をあるがままの状態で通関の検査に供した場合にはたとえ申告の品名と検査に供した現品との間にその同一性を害しない程度の規格の相違があり、しかも輸出をする者にその規格の相違につき認識があつたとしても、その他の点において何等の詐偽不正の手段が認められない以上、税関吏の輸出免許は申告の品名と相まつて検査の貨物そのものに対しなされたものと解するを相当とするから、右の場合に虚偽申告罪(旧関税法第七九条、新関税法第一一三条の二、第一一六条参照)を構成することがあるは格別、所謂無免許輸出罪はこれを構成しないものと断ぜざるを得ないのである。このことは旧関税法施行規則第三四条の申告書には品名、個数、数量の記載を命じているのみで、規格の記載までは必要としないこと、通産省告示輸出入統計品目表の輸出の貨物については品目のみを掲げているのみで、その規格の記載までは必要としないこと、又、税関吏の貨物の検査は貨物の実体そのものが輸出申告書に記載の品名に該当するかどうかについて行われること等に徴しても容易に窺われるところである。

今本件につきこれを見るに、原判決挙示の各証拠並びに当審で取調べた各証拠の結果を総合するにおいては、被告人はゴム・タイヤー、チユーブ等二五組を輸出するに当り昭和二八年三月三一日所轄神戸税関に対し右ゴム・タイヤーの規格が七五〇×二〇×一〇プライのものである旨の申告をなしたが、偶々当該規格の品物がなかつたので、その規格より約一割方小さい(一見同一規格のものと認められ、従つて品名の同一性を害しない)三二×六×一〇プライの貨物を通関の検査に供して検査を受けもつて右貨物の輸出の免許を受けた上で、これを同日神戸港に入港中の船舶バイオニヤランド号に積載して輸出したものであることが認められ、右申告並びに検査に際しては、単に規格を偽つたのみで、品名数量はもとよりその他についても詐偽不正の手段を講じたと認められる証拠は毫もこれを発見できないのである。さすれば前段において詳細に説明したとおりの理由により被告人の行為は無免許輸出罪を構成しないものというべく又所謂虚偽申告罪については、本件犯行当時一時廃止されていたものであるから、もとより適用の余地がない。然らばこれと相反する認定をした原判決には所論の如く事実の誤認に基く法律の適用を誤つた違法が存するものと認められるから、原判決はこの点において破棄を免れない。

(その余の判決理由は省略する)

(裁判官 児島謙二 畠山成伸 本間末吉)

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